斎藤は耽けた。

日常で思いついた話とか、日記のようなもの。

ここにはもう誰もいない。

 

 

ブログ、ちょこちょこやってはやめて、やってはやめて、を繰り返しているので実は初めてではないです。このネットの海に多分4つ5つ僕のブログが漂流しているのでいつかこの調子で増やしていったら僕のデータを持った人形使いが現れるかもしれません。結構楽しみにしています。そうしたら僕は大人しく人形使いと1つになりますよ。そこまでの腕を持てるかはしりませんが。攻殻機動隊で思い出したんですけど、最近は絵を描く以外によく映画をみています。岩井俊二監督の『ラブレター』『スワロウテイル園子温監督の『ひそひそ星』沖田修一監督の『南極料理人マルジャン・サトラピ監督の『ハッピーボイスキラー』あと大森立嗣監督の『まほろ駅前多田便利軒』とかキューブリックが制作途中でスピルバーグ後を継いだ『A.I』とか見直したりしてます。岩井俊二監督の2作品は生きてる時にぶつかる哀しさとか生きる勇気みたいなのがひしひし伝わってきますし、『ひそひそ星』はいわゆるポストアポカリプスなSF何ですけど叙情的で叙情的SF大好きな僕としては最高でした。『ハッピーボイスキラー』はエンディングのために見る映画ですね。でもそれが最高です。主演がデッドプールとかグリーンランタンとかで有名なライアンレイノルズさんで、なんか出てくる動物の声とかやってたりしてるんでいいですよ。めちゃくちゃいいです。特にエンディングがいい。ライアンレイノルズが歌いますからね。上手いんですよ。本当おすすめです。ここに挙げたのは全部おすすめです。ぜひ見てみてください。

いい感じの量かきましたね。では本編行きましょう。

 

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シベリアからの風が夏の暑さを拭う前に、彼女は「悪者になりたいから。」と言って同棲していた部屋から出て行った。

ダンボール二箱に隙間なく物を敷き詰めている彼女の背中に向けて感情そのままの言葉を投げたけれど、恥ずかしくて書くことはできない。

結局、彼女はそのまま出て行った。僕は往生際が悪くて「いってらっしゃい。」なんて言って、彼女は苦笑いで「いってきます。」と言った。

最後の会話になったその言葉を何度も反芻していたかったけれど、玄関の扉の閉まる音が頭の中で鳴り響いていた彼女の声を掻き消してしまった。

風と共に鼻腔に流れてきた彼女の匂いがなくなってきた頃、急に一人になった実感が湧いてきて、空気が肌に張り付いてきた。遠くで二回クラクションが鳴った。

目が熱くなるのを感じながら、僕は奥歯を噛み締めて珈琲を淹れようとヤカンに水を入れた。

お湯を沸かして、カップを温めて、ドリッパーに紙を入れて、先週彼女と買った豆を誕生日にもらったミルで挽いて。

「一回お湯を注いだら20秒待つといいんだよ。」「それからはお湯を途切らせないようにね。」彼女との会話が頭に浮かぶ

彼女は確かうんうんと聞いていたけれど、一度も僕の教えた通りにやっていなかった。でも彼女の淹れる珈琲は美味かった。不思議だった。

砂糖は、お互いに2.5本。まず5本取って、二本ずつお互いのカップに入れて、最後の一本は半分こしていた。

初めはなんだか甘過ぎる感じがあったんだけれど、今ではすっかり2.5本がちょうどよくなっていた。

これから先彼女の帰ってこない部屋で僕は彼女のことを少しずつ忘れていくだろうけれど、これだけは忘れられそうにない。

半分だけ使われた砂糖の口を捻っていると目から涙が出てきた。半分になった砂糖を握りしめて、珈琲を片手に居間に向かった。

「どうせ生きていても仕方がないからこの部屋に火でも付けようかな」言葉が漏れた。タバコに火を付けたあとだった。吸い終わってから決めようと思った。

 

 

 

  私

 

高校の時に私から告白した恋人と今でも一緒にいる。今年で5年目だと彼は言っていたけれど、私はそういうのを覚えないから変な感じだった。

「5年あったらハムスターも死ぬね。」私は言葉に困ってお茶を濁した。彼は苦笑いで答えてた。この5年でわかったのは彼がそういうジョークが嫌いということくらい。

あと、珈琲が好きってこと。小さい頃からお茶より珈琲の家庭で、その影響だって言ってた。

タバコもそうらしいけれど、彼はタバコが好きで吸ってるんじゃなくて、格好つけとストレス発散半々で吸ってる感じだった。

彼が幸せそうにタバコを吸ってるところを見たことがない。でもそれは私もそうかもしれない。幸せそうにタバコを吸う人はいないのかもしれない。

いるんだとしたら刑期を終えてすぐの元囚人くらいなんじゃないかと思う。それも多分5分かそこら。

何十億人って人がいて、その人たち全員がタバコを吸うなら多分膨大な時間をタバコが持ってることになる。

でもその中で本当の幸せとしてタバコに時間が費やされるのはごく僅かだと思うと変な感じだ。

そういえばこの5年もそうだ。本当に幸せだったのは告白を受け取ってもらったその一瞬だけで、そのあとは私から告白した責任感で付き合ってるようなものだった。

彼の物静かで、なんだか周りと良い意味で浮いてて、頭が良くて、器用で、優しくて、なんでも受け入れてくれそうな包容感に惚れた。

付き合ってみると、静かで一人なつまらない人だった。包容感は、包まれにいかないと感じられないもので、私はそういうのが苦手だったから意味はなかった。

彼が仕事に慣れてきたから来年あたり結婚しようか、という話が出た時私は少し怖くなって、返事を待ってもらった。

普通に考えたら、その業界の大手に就職した人のお嫁さんになって養ってもらうというのはいいことかもしれない。

でも、私は今彼のことを愛しているとは言い切れないし、今付き合ってるのは単なる責任感。結婚したらもっとこれが重くなっていく。それに耐えられる自信がなかった。

それから、一人でバーとかに行くようになった。彼には「一人で考えたいから。」とか言って。

バーに行くと誰かが必ず奢ってくれた、声を掛けてきた男性に付いていくなんてことはなかったけれど、携帯に登録されている連絡先は着実に増えていっていた。

そんなこんなで、彼に返事を待ってもらってから一月後私は彼の元を去った。「悪者になりたいから」とかなんとか言って。確かにこの言葉は本心だった。

出て行く準備はすぐ済んだ。二箱しかダンボールが家になかったから。それに持っていきたいものだけ詰めている時、離られる嬉しさを感じた。

でも、玄関を出る時に真っ赤な顔と目で「いってらっしゃい。」といわれた時は心がぐらついた。

また帰ってきて淡々とした毎日をもう一回送りたいと思った。あの生活が終わりだと思うと寂しくなった。「おかえり。」を言って欲しくなった。

私はそれでも涙を我慢して「いってきます。」って言った。私が出て行くのは彼と過ごせないと思ったからだから。

玄関の扉が大げさな音を立てて閉まるともう家の匂いも彼の匂いもしなくて、余計に寂しくなった。シャツを鼻に押し当てて懐かしい匂いを嗅いだ。

もうそろそろ寒くなるんだろうなって思わせてくれる気持ちの良い風に吹かれながら私は知り合いの車に乗って、いつも行く近場のバーに向かった。

 

 

 

  僕

 

彼女と別れてから半年近く経っていた。ついさっき、半年近くテーブルの上に置いてあった半分だけ使った砂糖を捨てた。

なんでそこにあるのかはよく覚えていない。それほど忙しかった。家には風呂と寝るために帰ってくる程度だった。

その忙しさを象徴するように、仕事が忙しくなってからは珈琲は基本ブラックだ。甘いと眠くなっていけない。自販機に売ってる泥水みたいなブラックをよく飲んでいる。

それと半年前から変わったことというと、酒を飲むようになった。会社に入ると飲み会があって、まあ当たり前に僕は飲んだ。

ウィスキーが好きで、今では飲み会じゃなくても一人で飲むようになった。タバコの銘柄もブラックデビルからメビウスに変わった。

最近は忙しい方の仕事にも慣れてきて、今日ようやく早い時間に帰ってこれたから近くのバーに行こうと思う。

名前は黒蜥蜴。江戸川乱歩が好きな僕としては行かざるをえない。多分内装は黒が基調になっていて大人の雰囲気があるんだろう。

先輩に「黒蜥蜴ってバーが近くにあって、僕江戸川乱歩とか好きだから通おうと思ってるんです。」と聞いたら「行かなきゃわからないよ。」と返された。確かにそうだ。

だが僕はすでにこの黒蜥蜴に親近感を抱いていて、他のところに行こうとは思わない。誓いみたいなもので、僕は家から行くバーは黒蜥蜴だけと決めた。

そろそろ8時だ。タバコを1本吸ったら黒蜥蜴に向かおうと思う。

 

 

 

 

  私

 

 

あれから半年が経った。悪者になれたかと聞かれたら、なれたと思う。5年間、彼氏がいるからってことで味わえなかった青春を取り返している気分だ。

彼氏はこの半年で3人くらい出来て、別れたし、彼らの影響でタバコの銘柄がころころ変わったり、映画の趣味がころころ変わったりして、他人事みたいだけど面白かった。

今は新しい彼氏と付き合っていて、彼が劇団の座長をしているから私も演劇をやってる。彼は私の顔と演技の根っこっていうのが好きらしくて、来年初めて舞台に立つ。

彼が私のために書いた脚本の主人公を私が演じる。半年前までは考えられなかったことで、あの家から出てきてよかったと思っている。

昼は彼の劇団の持ってるスタジオで練習したり、話し合ったりする。これからの演技とか劇だけじゃなくて映画批評とか美術の世界の話とか。

私は映画だと蜷川親子が好きで、絵画だとモネが好き。あの人が私の顔を見て「モネの日傘を差す女に似てる。」と言ってから好き。

夜はあの人と劇団の人たち何人かと一緒に私たちが出会ったバーによく行く。私がわがままを言って毎回連れてきてもらう。

二人目の彼氏が「良い名前だよな。炭焼きにされた蜥蜴みてえでよ。」って言ってからはずっとここが好きで、気に入ってるから。

そのバーっていうのは私が家を抜け出して夜遊びをするようになった頃からよく行ってた近場のバーで、そういう意味でも思い出深かったりする。

今もそのバーにいる。7時に練習が終わって、それからここに来て少し経つから多分8時過ぎくらい。くらいっていうのは、このバーに時計がないから。

店主が変わった人で、時間を聞いたり自分の時計を見たりすると「推理小説は残りページを気にしちゃダメなんだよ。」っていちいち言ってくる。でもそこが好き。

そのせいかわからないけれど、ここには面白い人が集まる。あの人は座長だし、時々有名なミュージシャンとか、アーティストが来る。普通の人も話を聞くと面白い。

私は結構人の話を聞くのが好きで、よく面白そうな人がいたり座るのに飽きたりすると席を離れて話しかけたりする。あの人は良い顔しないけど気にしない。悪者だから。

ちょうど今バーの扉のノブが捻られた。古い金属の甲高い音が鳴って、次に入店を知らせる鈴が鳴って黒い頭が見える。会社員かな。